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扉の向こう側 10年前 1996年9月17日 [小説:扉の向こう側]

 大学最後の夏休みには、大きいもの、広い世界を見てこよう、と麻美とオーストラリアに行った。
 昨日は二十一年間生きてきて、一番驚いた日だった、と言っても大げさではないと思う。
 アボリジニの聖地、エアーズロック。
 あの山のように大きなものが一つの岩であるというだけでもスケールが大きい。
 そんなスケールの大きいものがある場所なのに、入り口の共用スペースにオーナーの趣味だという精巧なドールハウスがある、その変な取り合わせがおもしろいホステルに三日間滞在した。
 ドールハウスの中にベッドテーブルの上の陶器に盛り付けたステーキや添え物の野菜シルバーウェア、ワイングラスがに忠実に再現されていて、滞在中何度も共用スペースに来てそれを眺めた。本当によくできている、と思った。
 今日はシドニーに移動する日。
 ホステルの人が送ってくれると言うので、車の準備を待つ間、共用スペースに置かれたノートをめくった。
 様々な国の言葉で綴られた、数々のメッセージ
 一番最後のページに、のびのびと大きな字で書かれていた言葉。
 Go straight on this road.
 この道を、まっすぐに進め。
 まっすぐ。まっすぐ進んだ先に何があるんだろう。
 東京で生まれ育った私は、この国に来て初めて、建物も他の車も何もない空間に続くまっすぐな道をひたすらドライブする、という体験をした。これを書いた人も、そんなことを思って書いたんだろうか。
 私も書いておこうかな。
「鈴ー。準備できたってー」
 先に外に出た麻美が呼んでいる。
「はーい」
 あわてて、書き付けた。
 See you soon!! Suzu
 書いてから、思いきり情けなくなった。
 英語力、乏しいなあ。急いでいると他に何も思い浮かばない。
「回れ、まーわれ、メリーゴーランド、もうけして止まらないように。動きだーしたメロディ。ラララ、ラーラ、ラーブソーング」
 麻美が最近ドラマの主題歌で流行った曲を歌っている。
 急いでノートを閉じ、荷物を担いで、眩しい外へと飛び出した。


photo: :::AnytimeWoman:::[PhotoMaterial]

Song : 久保田利伸 『LA・LA・LA LOVE SONG』


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