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扉の向こう側 未来 2006年9月17日 [小説:扉の向こう側]

 今、ここにこうしているのは、たくさんの過去の結果だ。
 全てのことはきちんとつながっている。
 ふと思うこと。何気なくすること。落ち込むこと。笑うこと。失敗や成功。誰かの言葉。一見何の意味もないことにも、実はちゃんと意味がある。見えないところでつながって、結果が出る。
 もし一つでも開く扉が違っていたら、少しでもタイミングが違っていたら、今とは違う人生を生きていたはずだ。
 私はそれを知っている。
 だから、今、この瞬間を大切にしたい。ここからまたつながっていく明日のために。
 今日は、初めてコイトタワーで二人が出会った日。
 たまたま日曜日だったので、午後、コイトタワーに出かけて、それからフィッシャーマンズワーフのカフェでクラムチャウダーを食べた。この後はケーブルカーに乗ろう、とリクエストしたら、いかにも観光客っぽいルートだ、と孝弘は面倒くさそうに頭をかいた。そうは言ってもちゃんと付き合ってくれるんだけど。
 彼の出発前、一月五日に籍を入れた。そして、六月、私もサンフランシスコにやってきた。
 入籍の時は、双方の親を呆れさせ、麻美には『電撃結婚』と冷やかされた。でも私たちには、唐突という感覚はなかったし、一時の勢いだけで決めたことじゃないという確信があった。
 中西さんは、無一文になって帰ってきたら二人とも雇ってやる、と笑って送り出してくれた。
 今のところ、彼のいる会社も彼自身の仕事も軌道に乗っているし、最近は私も彼の設計したものの模型を作っている。作った分は会社から報酬をもらえる。
 席を立つ時、隣のテーブルの金髪の小さな女の子が、私に向かってニッコリ笑って手を振った。
 バイバイ、と私も手を振り返す。
 女の子をはさんで座った若いママとパパが笑った。
「おーい、行くよ」
 孝弘がカフェの木の扉を押し開けたままの姿勢で振り返った。
「今行く」
 私はあったかい気持ちで彼の元へ急ぐ。
 いつかあんな家族になれたらいい。彼との未来を頭に思い描くのは、とても自然で、設計図のように現実的だ。
 孝弘の手をとって、一緒に外に出た。
 ゴーッという低音とよく響くベルの音。二ブロック先を臙脂色のケーブルカーが横切って行った。
 サンフランシスコに来て一番最初に作ったミニチュアは、ケーブルカーだ。孝弘には「電車マニアみたいだな」と笑われるけど、私はこの乗り物がこの街で一番気に入っている。上り坂、下り坂、坂だらけのこの街の風景を最も楽しめる乗り物だ。平坦な街しか知らない私には、同じ場所でも位置によって見え方がまるで違うのがおもしろくて、見飽きない。
「Excuse me. Could you show me the way to Ghiradelli Square?」
 観光客らしいアジア系のカップルからギラデリスクエアへの道を尋ねられて、孝弘が腕を伸ばして指差した。
「Go straight on this street, then you can find it on right side」
「Thank you very much」
 次に開く扉は、どんな未来につながっているんだろう。
 今はただ、楽しみにしておく。結果は二人で共有できるから。


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